報告に先駆け、参考のために当日配布された資料をもとにグラウンドワークの概観を以下に示す。
グラウンドワークは1980年代に 英国で環境再生のために始まった実践活動で、「環境」を中軸テーマとして、トラストと称する実践組織によって地域の問題解決に取組む運動である。トラスト は地域代表で構成される理事会とその下の専門スタッフからなり、地域住民、企業、行政とのパートナーシップを図り各プロジェクトを実践する。各トラストを 統合するための協会があり、協会は各トラストへの専門スタッフの派遣や種々のサポート、トラスト間の情報交流などのネットワーク活動を行っている。英国で はこのトラストが47ヶ所あり、750人以上のスタッフが年間約8万人のボランティアの協力を得て、約4,500件のプロジェクトを展開している由。
日本では、1990年代に静岡県三島市や滋賀県甲良町、福岡県福岡市で住民のボランティア活動として、英国のグラウンドワークにならった市民、企業、行政 のパートナーシップによる地域の改善活動が行われ始め、これらを束ねるものとして1995年に財団法人日本グラウンド協会が設立された。NPO法人グラウ ンドワークは、三島地域でそれまでばらばらに活動していた市内の8団体が結集し、1992年9月に「グラウンドワーク三島実行委員会」を設立し、1999 年10月に法人格を得たものである。1.シンポジウム
シンポジウムでは最初に三島市長より挨拶があり、三島市が環境先進都市を目指しておりグラウンドワーク三島の活動もその中で位置づけているとの話があった。
1)基調講演
「変革の時代」、「官の限界」、「民の可能性」、「新しい地域社会のガバナンス」の4つの視点で話があった。概要は以下のとおり。
- 現在は、①意識の変化、②人口の変化(減少、老齢化)、地球温暖化などの大きな変革の時代に突入しており、さらに国は500兆円、地方は200兆円の大きな借金を抱えており、これに対して行政は対応できない。
- もはやこのままでは行政には任せられない状況にあり、「公を担 う主体としての民」ということを打ち出していかないといけないと強く認識している。阪神・淡路大震災の折のボランティア活動やNPO法人の増加など市民の 力の結集を見るが、一方で、身の回りで行政や社会活動に対する「市民の無関心」ということにも直面した。そうした中でグラウンドワークを知り、今後の活動 の方向性を見る思いである。
- かつての行政マンの立場(元大蔵省勤務)で今後の方向性につい て行政のあり方を考えてみると、「役所の情報公開」ということが重要である。これについて、カナダでは予算措置要求に対して、①公益性、②税の必要性、③ 連邦税の必要性、④国がやる必要性、⑤予算対効果、⑥優先順位の6つのテストがなされているのは参考になる。これからは、市民・行政の間には税の使途に対 してInformed Consentを入れる必要がある。
- 一方、市民に求められることとして志のある人(グループ)間の 協調が重要。好き嫌いで処しては駄目で、ここにNPOのコーディネータが必要になる。英国ではこの人材育成のために、資金の集め方、ディベート法、役所と の折衝の仕方などを研修するCivic Trust研修がある。また、NPOの企業化や企業のNPO化も今後の方向である。公務員は調整能力に優れているので、NPOのコーディネータを第二の人 生として考えられないかとも考えている。
2)事例紹介
1961年以降、湧水の減少が進み、ゴミが捨てられ、汚れた川のシンボルになってしまった源兵衛川を市民、NPO、企業、行政のパートナーシップによる 新たなる市民運動(グラウンドワーク)によって再生した事例、湧水の枯渇と環境悪化によって絶滅してしまった水中花“ミシマバイカモ”を復元し保護育成す るための湧水公園づくり、学校ビオトープづくりなどの事例を紹介しつつ、グラウンドワークとは何か、その駆動力や要件などについて話があった。グラウンド ワークのキーワードとしては、①住民アクション、②パートナーシップ、③環境創造(昔の姿の再現)の3つが挙げられるが、パートナーシップとは生易しいも のではなく粘り強い話し合いの積み重ねが必要であることが強調された。また、共通の理念や目標の構築、具体的で戦略的な事業計画の策定、市民活動のネット ワーク化、縦割りを横割りに持っていく行政へのアプローチなどが重要と指摘。三島グラウンドワークでは「右手にスコップ、左手に缶ビール」を合言葉に、議 論よりもアクション、実践と成果を出すことを信条として運動を展開しており、仲介役的市民団体としてのノウハウの蓄積を図っているとのことであった。
3)パネルディスカッション
先ず各パネラーからの活動紹介やコメントがあり、その後ディスカッションに入った。
- 山田氏は千葉県で知的障害のある若者たちを中心としたグラウン ドワークに取組んでおり、障害のある子 どもとない子どもが地域の普通学級で共に学ぶ教育を目指して運動をつづけている。障害児の卒業後の道を模索する中でグラウンドワークを知り、その活動のド キュメンタリー映画化、コミュニティカフェ“ひなたぼっこ”の開店などの活動を紹介。8年間県の教育委員会と平行線の戦いを経て情報公開法がきっかけと なってやっと道が開けてきた苦労話をした。
- 宮崎氏は行政の立場で長くグラウンドワークに関わっているが、 三島市では、「水と緑」がキャッチフレーズとして認知され成果が上がってきたこと、また人の輪が広がり、それらが市の事業費補助を獲得してきたことを話し た。そうした経緯から、“市民は完璧を求めすぎるとかえって役人は身構えてしまう”、“役人の役割は仕事をなるべくしないこと”がよいといった感想を述べ た。
- 小浜氏は、自身はボランティアの立場でグラウンドワーク活動に 関わってきたが、その経緯の中から、企業は技術・ノウハウ・施設を持っておりこれを活用することが有用であり、企業にとっては例えばマスコミに出ることに よる企業イメージアップなどのメリットにつながると述べた。そして企業の参加を促すためには、企業にとってのメリットを訴求することが重要であると訴え た。
- 金蔵氏はグラウンドワークの役割として、人間中心でプロセスを 大事にすることが重要で、これが地域を変える原動力となり、地域のシンクタンクとして行政に対する提案力を持つことが大事と述べた。また、グラウンドワー クの先進国である英国では、パートナーシップは当たり前のことになっており、今では地域の経営戦略をどうするかが中心テーマになってきていると説明した。
- コーディネーターの渡辺氏は、最後に、「先ず住民と行政とが一 堂に会して覚書的なことを交わすこと」、「潤いのある町づくりとは、同時にポケットも潤すものでなければいけない」と述べ、現在、三島市で展開している 「街中がせせらぎ事業」が今後、商業者、農業者との連携を進め環境コミュニティビジネスに発展していくことを期待をもって展望した。
2.活動実践地視察
シンポジウムの翌日は朝8:30に三島グランドホテルに集合しマイクロバスとワゴン車を仕立て、活動実践地の見学を行った。参加者は循環研メンバーを含めて25人ほどで、三島グラウンドワーク事務局長の案内で以下の5箇所を訪問した。
1)境川・清住緑地
三島市と清水川の境を流れる境川とその遊水地の整備計画を住民参加で策定し、昔の水辺自然環境を再現して、その管理活用を住民主体で行っている。
2)長伏小学校ビオトープ
以前はコンクリートだった小学校の中庭を子どもたちが描いた計画図にもとに、子どもたち・PTA・地域住民・企業が協力して、池・小山・田んぼなどを作って、草花・昆虫・鳥などが集まってくるようにしている。
3)三島梅花藻の里
三島の宝物である水生植物の梅花藻が湧水の減少と水質悪化により市内からほとんど消滅していたが、それを佐野美術館所有の湧水池で再生・復活し梅花藻の増殖基地として整備。
4)源兵衛川・水の散歩道
かってはホタルが乱舞し、子どもたちが水遊びに興じていた源兵衛川がどぶ川になってしまっていたのを再生し、昔の原風景が復活。今では三島市の観光振興の各施設となっている。
5)宮さんの川ホタルの里
宮さんの川は水辺プロムナードとして環境整備が図られているが、未整備となっている上流区間にホタルが乱舞する水辺空間を創造すべく現在整備中。
最初に訪れた境川・清川緑地は湧水が清流となって流れ、そこに自生した潅木や新たな植林によって自然の風情が再現されており、小さいながら3枚の田んぼ も復元されている。たくさんのトンボや水生植物、鳥たちも戻ってきているとのことで、街の中のオアシスの雰囲気である。子 どもたちにとってもここが遊び場であり自然と接する場所となっている。当日は土曜日ということもあり、田んぼでとれたお米でモチ作りを始まっており、さわ やかな秋空の下で住民たちが和気あいあいと集っていた。
長伏小学校のビオトープづくりは、関係者の粘り強い話し合いの結果実現したとのこと。当初、学校の先生、父兄に多くの反対者がいたにもかかわらず、三島 グラウンドワークが熱意あるPTA関係者と一緒になって百数十回以上の話し合いを重ね、次第に周辺を説得したとの話は感動ものである。ビオトープが出来る 前は子 どもたちの関心はテレビゲームであったのが、今では昆虫や蛙などの生物に向いてきたとのことは環境教育をどう進めるかをあらためて考えさせられた。
三島梅花藻は白い小さい花を年中咲かせているとのこと。ただ、訪れたときは花がほとんどなく、最近花をつけなくなってしまい原因がよくわからない由。自 然条件とは微妙なことがあるもので、清流だけでは駄目な要因があるのかもしれない。ここが有名になってきたのを利用して向かいに梅花藻にあやかった菓子屋 ができたとのこと、思わず笑ってしまった。
再生された源兵衛川はグラウンドワーク三島の活動の原点となるものである。ドブ川と化してしまった当時は、住民は昔話と行政批判ばかり、行政は言い訳ば かり、企業は無関心であったのを、グラウンドワーク三島が仲介役となり、バラバラの利害関係を取りまとめ、住民・企業・行政のパートナーシップを実現した 例である。現在は観光振興の核施設にもなっており、多くの観光客が訪れている。川の流れに沿って索道も作られており、普段はそこを散策できるが、当日は増 水して水没していた。せっかく来たので裸足になり歩いてみた。ひんやりを通り越して冷たすぎる感もしたが清流の感触を味わった。
その後、ホタルの飼育状況を見聞したり、ホタルの里の工事現場を見て解散となった。 |